アニマルウェルフェアとは

動物が苦痛やストレスから解放され、健やかに生きられるよう飼育環境に配慮すること。

なぜ、食の現場でアニマルウェルフェアが注目されているの?

レストランの一皿は、味だけでなく、どんな環境で育った食材かという背景も含めてお客様に届きます。動物の苦痛やストレスに配慮して育てられた食材を選ぶことは、アニマルウェルフェア(動物への配慮)につながる取り組みのひとつです。こうした姿勢を丁寧に伝えていくことが、料理への信頼や、お店とお客様との継続的な関係づくりにもつながっていきます。

飼育場の床に立つ、たくさんのひよこ

なぜアニマルウェルフェアが大切なのか

アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは、食用として使われている動物がその生涯を通じて、ストレスや苦痛から解放され、本来の行動要求が満たされた状態にあること、そしてそのような状態を実現するよう配慮された飼育環境を目指す考え方・取り組み全体を意味します。

アニマルウェルフェアでは、動物は苦痛や恐怖だけでなく、喜びや楽しさなどさまざまな感情を感じる感受性のある生き物(sentient being)として捉えます。つまり、痛みや恐怖といった「苦しみ」だけでなく、満たされた気持ちや安心、喜び、楽しさといった「うれしい感情」も感じる存在だという前提に立っています。そのため、単に「苦しみを減らすこと」だけでなく、「どれだけポジティブな体験を増やせているか」という視点も重要になっています。

世界動物保健機関(WOAH)は、動物が満たされるべき状態として「5つの自由(Five Freedoms)」をアニマルウェルフェアの基本原則として採用しています。これは動物の飼育環境の改善や管理体制の指針として、国際的に広く認識されており、「どのような苦痛や不備が残っているか」を確認するための、最低限のチェックリストとして位置づけられています。

一方で、「5つの自由」だけでは最低限のマイナス要因の削減にとどまり、動物がどれだけポジティブ体験をしているかまでは十分に評価できないという指摘も増えています。そこで近年注目されているのが、「5つの領域(Five Domains)」という考え方です。5つの領域モデルでは、栄養・環境・健康・行動・精神状態の5つの領域から動物の状態を評価し、「飢えや病気がないか」だけでなく、「その動物にとって生きる価値のある生活になっているか」というポジティブな面まで含めて考えます。

5つの領域 Five Domains

動物福祉の5つの自由(空腹と渇き・不快・痛み傷害病気・恐怖と苦痛・正常な行動からの自由)から、5つの領域(良好な栄養・快適な環境・良好な健康とフィットネス・良好な精神状態・積極的な行動)へと、苦痛の回避からポジティブな経験を増やす視点に発展した図解

人と動物の関係をめぐる考え方とアプローチの違い

動物との関わり方には、さまざまな考え方やアプローチがあります。それぞれがどのような考え方に立ち、どのように動物とかかわろうとしているのかという違いを知っておくことで、「どの立場から、どのような改善を目指しているのか」が理解しやすくなります。

アニマルライツは、動物も人間と同じように生まれながらの権利を持っており、どのような目的であっても人間が動物を利用すること自体が倫理的に問題であると考える立場です。

また日本では、動物愛護という言葉もよく使われています。これは主に、動物の命を大切にし、思いやりや優しさをもって接することで、虐待を防ぎ保護することを目的としています。

一方、アニマルウェルフェアは、現代社会において動物がさまざまな形で利用されているという現状を踏まえつつ、その利用のあり方を見直し、動物ができるだけ快適に過ごせるよう配慮し、苦しみを可能な限り減らし、ポジティブな経験を得られることを重視する考え方です。

アニマルウェルフェアは、国際機関が定める基準や各国の指針に見られるように、科学的な知見に基づいて動物の状態を評価し、その結果をもとに制度やルールが整えられていることも大きな特徴です。

  • アニマルライツ

    • 動物も人間と同等の権利を持つべき
    • 人間による動物の利用そのものを否定
    • 全ての動物が対象
    • 動物本来の生き方を重視
    • 理念的・倫理的アプローチ
  • アニマルウェルフェア

    • 動物の生活の質を重視
    • ストレスや苦痛を減らす飼育方法
    • 人間による利用を前提
    • 科学的・客観的アプローチ
    • 家畜や実験動物などが対象
    • 動物の福祉を重視した中間的視点
  • 動物愛護

    • 人間が動物を愛し大切にする
    • 命を大切にする感情的概念
    • 主にペットなどの身近な動物が対象

日本における採卵鶏の飼育状況

アニマルウェルフェアの取り組みの中でも、最も広く進められているのが、採卵鶏をケージから解放する、いわゆるケージフリー化です。採卵鶏は、陸生動物の中でも世界で最も飼育数が多い家畜の一つであり、その数は人間の人口に匹敵すると言われています。こうした膨大な飼育頭数に関わる飼育環境を改善することは、アニマルウェルフェア全体に非常に大きなインパクトをもたらし得ます。そのため AWCPは、より大きな変化につながる分野として採卵鶏を主な対象に据え、活動を行っています。

日本では、採卵鶏の大半が今もケージで飼われており、平飼いや放牧などのケージフリー飼育はまだ少数派です。日本国内のすべての鶏について、飼育方法別の羽数を網羅的に示した公式データはありませんが、NPO や大学、国際機関などの調査から、ケージフリー率のおおよその水準を推し量ることができます。

例えば、International Egg Commissionのデータでも、日本のケージフリー率は2023年に約6.4%、2024年には約3.5%と、一桁台前半の水準にとどまっています。こうした結果を総合すると、日本国内の採卵鶏のケージフリー率は、現時点では5%未満にとどまっていると考えられます。依然として大多数の採卵鶏がケージで飼育されていることから、日本におけるアニマルウェルフェアの向上には、ケージフリー飼育の拡大が依然として大きな課題となっています。

なぜ採卵鶏の飼育環境が問題になるのか

採卵鶏の多くは、羽を大きく広げたり、止まり木にとまったり、巣で安心して産卵したりといった、ごく基本的な行動さえ叶わない狭いケージで一生を過ごしています。こうした環境では、運動不足やストレスによるケガや疾病、本来の行動の制限だけでなく、骨折や骨粗しょう症などの健康被害が多く報告されており、その結果として継続的な痛みや苦痛を抱えている可能性が高いことが指摘されています。

こうした「狭い空間に閉じ込める飼い方」は、欧州などでは、科学的な評価の結果「病気や骨折、有害なつつき行動、死亡率を高める」とされ、バタリーケージの禁止やケージ飼育からの段階的な転換といった政策につながってきました。何億羽もの採卵鶏がこのような環境で生涯を終えていることが、世界的に重大な課題として認識されつつあります。

採卵鶏の自然な行動上のニーズ

地面を引っ掻いて餌を探す鶏
地面を引っ掻く行為
止まり木にとまって休む鶏たち
止まり木で休憩
静かで暗い巣箱で産卵する鶏
静かで暗い巣箱
地面で砂浴びをする鶏たち
砂浴び

ケージフリーとは

ケージフリーとは、鶏をケージに閉じ込めず、自由に動き回れる環境で飼う方法の総称です。具体的には、地面の上を自由に動ける「平飼い」や、平飼いの一種で多段式構造で上下にも移動できる「エイビアリー方式の平飼い」、屋外に放して草地などで過ごせる「放牧」などが含まれ、いずれもケージよりも自然な行動がとりやすい飼育方法です。

ケージ飼育(バタリーケージ・エンリッチドケージ)はケージフリーではなく、エイビアリー・平飼い/バーン・放牧・有機はケージを使わず鶏が自然な行動をとれるケージフリーであることを示す比較図
ケージフリーではありません
(ケージを使用して飼育)
ケージフリーです
(ケージを使用せずに飼育)

なぜアニマルウェルフェアが注目されるのか

アニマルウェルフェアは、動物の健康・人の健康・環境を一体で考える「ワンヘルス」の考え方が広がる中で、国際機関や各国政府が政策や規制の重要な対象として位置づけるようになってきました。同時に、エシカル消費やESG投資への関心の高まりを背景に、企業がケージフリー方針などアニマルウェルフェアに関する方針を相次いで公表し、社会的な注目を一層高めています。

近年はとくに食品産業を中心に、アニマルウェルフェアは企業経営と密接に関わるテーマとして捉えられつつあります。従来は倫理やCSRの文脈で語られることが多かったものの、現在ではサプライチェーンリスクの管理、各国規制への対応、ブランド価値の維持・向上、ESG評価や投資家からの要請への対応など、複数の経営課題と直結する領域へと位置づけが変化しつつあります。こうした国際的な基準や評価枠組みの整備、ESG投資の拡大も背景に、アニマルウェルフェアへの取り組みは、企業価値や資本市場での評価にも影響し得る重要な経営課題として認識されるようになってきています。

日本で進み始めている変化

日本では、ケージフリー鶏卵の割合は依然として低い水準にとどまっていますが、ケージフリー調達に取り組むグローバル企業や国内企業は着実に増えつつあります。さらに、キユーピー、トリドール、ブルボンのように、「○○年までに、使用する卵の△△%(あるいは使用する全ての卵)をケージフリーにする」といった、期限・目標値・対象範囲・対象地域を明示したケージフリー政策を公表する企業も見られるようになってきました。

私たちにできること

卵に関係する企業や飲食店が、使用する卵をケージフリー卵に切り替えることは、サプライチェーン全体に大きなインパクトをもたらします。調達方針やメニューでケージフリー卵を選択することで、多くの採卵鶏の飼育環境の改善につながり、アニマルウェルフェアの向上を具体的に後押しすることができます。

また、そのような方針を掲げ、実際にケージフリー卵への移行を進めている飲食店や企業を、取引や利用、情報発信などを通じて応援することも大きな意義があります。企業と消費者の双方が同じ方向を向くことで、ケージフリー飼育を「当たり前」にしていく流れを一層加速させることができます。

参考資料

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放牧された鶏たち