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画像:おいしさの背景を知るほど、食べることは豊かになる。

おいしさの背景を知るほど、
食べることは豊かになる。

「the Blind Donkey」と「KURKKU FIELDS」が考える、おいしさとアニマルウェルフェア

the Blind Donkey(ブラインドドンキー)

画像:曽根 浩貴/the Blind Donkey 料理長

Profile

曽根 浩貴/the Blind Donkey 料理長

1986年、岐阜県生まれ。学校卒業後は飲食とは別の道を歩むが、食べること・飲むことへの思いが高じ、29歳で料理人を志す。クラフトビールのパブや六本木「ブリコラージュ」を経て、2020年、客として訪れた神田「the Blind Donkey」でシンプルな料理のおいしさに感銘を受け入社。創業者ジェローム・ワーグをメンターに、2023年11月の清澄白河移転を機に料理長へ就任。生産者と旬の食材に敬意を払い、素材の形や色を生かす料理を追求している。

Profile

新井洸真|KURKKU FIELDS

千葉県木更津市にある約30ヘクタールの農場「KURKKU FIELDS」で、農業、食、自然、アートを通した場づくりに携わる。生産者、料理人、食べ手、動植物を「共同生産者」と捉え、農場内外に循環する関係をつくることを目指している

Profile

岩本藍|KURKKU FIELDS 養鶏担当

KURKKU FIELDSで野菜づくりなどを経験した後、平飼い養鶏を担当。地域の未利用資源や規格外野菜を生かした自家配合飼料を用い、鶏本来の行動と農場内の循環を大切にした養鶏に取り組んでいる

東京・清澄白河にあるレストラン「the Blind Donkey」で使われている卵は、一般に「おいしそう」とイメージされやすい、濃いオレンジ色ではありません。卵黄は、明るく澄んだレモンイエロー。味わいにも強い癖がなく、卵そのものを主張するというより、野菜の香りや甘味、苦味を損なわず、料理全体を穏やかにつないでいきます。

この卵を生産しているのが、千葉県木更津市にある「KURKKU FIELDS」です。約30ヘクタールの敷地で、有機農業、酪農、平飼い養鶏、食、宿泊、アートなど、さまざまな活動を展開するKURKKU FIELDS。農場で生まれる規格外の野菜や地域の未利用資源を鶏の餌に利用し、鶏が産んだ卵を届け、鶏糞は再び土に戻す。農業や養鶏、料理を別々の仕事として捉えるのではなく、ひとつの循環としてつなげています。

the Blind Donkeyが、この卵をオープン当初から使い続けている理由は、味だけではありません。鶏がどのような環境で暮らし、何を食べ、誰に、どのような考え方で育てられているのか。食材ができるまでの過程を理解し、納得したうえで選ぶことが、同店にとって料理の出発点になっています。

一方、KURKKU FIELDSにとっても、レストランは単なる販売先ではありません。手間をかけて育てた卵を料理として食べ手に届け、生産の背景に関心を持つきっかけをつくってくれる、大切なパートナーです。

生産者が育て、料理人が調理し、食べ手が選ぶ。この関係は、アニマルウェルフェアを特別な理念にとどめず、日々の食事のなかに広げていくために、どのような役割を果たすのでしょうか。

the Blind Donkey料理長の曽根浩貴さん、KURKKU FIELDSの新井洸真さん、養鶏を担当する岩本藍さんに話を聞きました。

Question.

the Blind Donkeyが大切にしている「素材を生かす料理」とは?

曽根浩貴さん|the Blind Donkey

the Blind Donkeyは、日本各地の小規模な生産者、特に自然に寄り添い、土地の循環のなかで農業や畜産を営んでいる方々とつながり、その食材を東京の食べ手へ届けるレストランです。僕が初めてこの店を訪れたのは、2019年頃でした。当時はまだ働く側ではなく、客として食事をしに来たんです。

最初に印象に残ったのは、オープンキッチンでありながら、厨房がとても静かで整然としていたことです。一般的なレストランの厨房は、忙しい時間になると慌ただしくなりがちですが、ここにはどこか落ち着いた空気がありました。料理も、食べた瞬間に強烈な印象を与えるというより、店を出て時間が経ってから、じわじわと「おいしかったな」と記憶がよみがえってくるようなものでした。食材の味を無理に際立たせるのではなく、素材がもともと持っている魅力を静かに引き出している。その感覚が、自分のなかに長く残りました。

その後、働く側として店に加わり、生産者との関係や、食材の背景にある考え方に触れるなかで、自分自身の料理への向き合い方も変わっていきました。以前からオーガニックや、カリフォルニア・バークレーのレストラン「Chez Panisse」の存在は知っていました。ただ当時は、生産者との関係に深く踏み込んでいたわけではありません。the Blind Donkeyで働くようになって、生産方法や環境について頭で理解するだけでなく、実際に届く食材の味や状態を通して、その意味を実感するようになりました。

自然の循環のなかで育てられた野菜には、生命力があります。単純に食べておいしいですし、品質がよく、持ちもいい。どれほど立派な理念があっても、レストランとして提供する以上、おいしくなければ続きません。僕たちが生産者の考え方に共感できるのは、理念そのものだけでなく、その考え方が食材の味や状態にきちんと表れているからです。

僕は、料理の9割以上は素材で決まると考えています。もちろん、料理人は調理をします。ただ、自分の技術を見せるために何かを付け加えるというより、生産者の考え方や、その土地の特徴を損なわず、どうお皿の上に表現するかが大切です。僕たちの料理は、生産者から届く素材がなければ成り立ちません。

曽根浩貴さん|the Blind Donkey
曽根浩貴さん|the Blind Donkey

Question.

食材を選ぶとき、なぜ「生産者自身」まで見るのでしょうか?

曽根さん

僕たちは、「オーガニックだから選ぶ」「平飼いだから選ぶ」といったように、言葉やカテゴリーだけで食材を判断しているわけではありません。

もちろん、生産方法は重要です。ただ、同じ方法を採用していても、実際の環境や日々の仕事への向き合い方は、生産者によって違います。どのような土地で、何を観察し、何を大切にしているのか。問題が起きたときに、どのように考え、判断するのか。そうした生産者の姿勢が食材に表れていると感じられる方々と、僕たちは付き合いたいと思っています。

食材には、生産者が日々積み重ねてきた判断が表れます。味だけではなく、香り、色、形、鮮度、日持ちにも、その土地の環境や育て方が反映される。料理人は、届いた食材を通して、その背景まで受け取っているんです。

だから食材を仕入れるということは、単に商品を購入することではありません。誰が、どのような考えでつくったものを選ぶのか。そして、誰の仕事を支えていきたいのか。その選択でもあると思っています。

the Blind Donkey

Question.

野菜と畜産物では、食材を選ぶ際の視点も変わりますか?命を食材として受け取るとき、料理人は何を確認しますか?

曽根さん

畜産物を選ぶときには、その動物がどのように生きていたのかを考える必要があります。過度なストレスのない環境で育てられているか。不自然なものを与えられていないか。その動物が本来持っている行動を、できるだけ行える環境になっているか。そうしたことを見ています。

畜産物である以上、最終的には肉や卵、乳製品として、人間が命をいただくことになります。だからこそ、そこに至るまでの時間を、できるだけ健康に、のびのびと過ごせるようにする。そのことを真剣に考えている生産者の食材を選びたいと思っています。

効率を最優先した養鶏では、限られた空間のなかで、鶏が卵を生産するための機能だけを求められてしまう場合があります。もちろん、生産現場にはそれぞれの事情があります。それでも僕たちは、できるだけ鶏が動ける空間があり、鶏本来の行動に配慮した環境で育てられた卵を選びたい。

それは理念のためだけではありません。そうした環境で育てられた食材には、料理人として扱いたいと思える味わいがあるからです。

Question.

なぜKURKKU FIELDSの卵を、オープン当初から使い続けているのですか?

曽根さん

KURKKU FIELDSの卵は、the Blind Donkeyの考え方をよく表している食材のひとつです。

卵黄は、一般的に「おいしそう」と思われやすい濃いオレンジ色ではなく、澄んだレモンイエローをしています。色を濃くすることを目的に飼料を調整したものではなく、鶏が日々食べているものが自然に表れた色です。味わいも、とても濃厚で卵の存在を強く押し出すというより、癖が少なく、澄んでいる。

僕たちが扱う野菜の香りや甘味、苦味を覆い隠さず、料理のなかで自然に寄り添ってくれます。料理において「特徴がある」ということは、必ずしも味が強いということではありません。ほかの食材を生かし、料理全体をつなげられることも、大切な特徴だと思います。

店では、卵そのもののおいしさが伝わるプリンや、ニンニクを使ったアイオリソース、野菜と卵を組み合わせたプレートなどに使っています。シンプルな料理ほど、この卵の澄んだ味や質感がよく分かります。

ただ、使い続けている理由は、味だけではありません。鶏に過度なストレスを与えず、自分たちで選んだ餌を与え、できるだけ鶏本来の行動ができる環境で育てる。さらに、農場で生まれる規格外の野菜や地域の未利用資源を餌として活用し、養鶏そのものを農場全体の循環のなかに位置づけている。そうしたKURKKU FIELDSの姿勢も含めて、信頼しています。

食材の味と、その食材がつくられるまでの過程は、別々のものではありません。どこで、誰が、何を考え、どのように育てたのか。それを知ることは、料理人がその食材をどう扱うかを考えるうえでも重要です。

背景を知ることで、必要以上に手を加えるのではなく、その食材が持っているよさを、できるだけ損なわずに届けたいという意識が生まれます。

曽根浩貴さん|the Blind Donkey

Question.

農業だけでなく、食や宿泊、アートまで。KURKKU FIELDSはどんな場所を目指しているのでしょうか?

新井洸真さん|KURKKU FIELDS

KURKKU FIELDSは、千葉県木更津市にある約30ヘクタールの農場です。2010年から有機農業に取り組み、農場で育てた野菜や、平飼い養鶏から生まれる卵、酪農から生まれる乳製品などを、料理や加工品にして届けています。

場内には直売所や飲食施設、宿泊施設があり、アート作品や、自然や農業に触れられる体験プログラムもあります。農産物を生産するだけではなく、食べること、滞在すること、自然に触れることを通して、農業や環境との関係を体感してもらう場所です。

ものづくりでは、できるだけ地球環境への負荷を減らし、動物にも配慮しながら生産することを大切にしています。ただ、環境への配慮を、難しい説明から理解してもらおうとは考えていません。まずは、食べて「おいしい」と感じる。ここで過ごして「気持ちがいい」「楽しい」と感じる。

その感覚を入り口にして、「この味や時間は、どのような自然環境や人の仕事によって生まれているんだろう」と想像してもらえたらと思っています。頭で理解してから行動するのではなく、まず感覚として「いいな」と思い、その背景を後から知っていく。その順番も大切だと考えています。

新井洸真さん|KURKKU FIELDS
新井洸真さん|KURKKU FIELDS

Question.

規格外の野菜が卵になり、また土へ戻る。鶏は農場の循環をどう支えているのですか?

新井さん

KURKKU FIELDSでは、農場で何かを生産するだけでなく、そこから生まれるものを、できるだけ場内で循環させることを目指しています。料理や加工の過程では、食べ残しや野菜くず、排水なども生まれます。そのままでは廃棄物や環境への負荷になってしまうものを、堆肥にしたり、水をきれいにして自然へ戻したりしながら、次の役割につなげています。

養鶏も、その循環を支える重要な存在です。農場では、品質には問題がなくても、大きさや形が規格から外れ、販売できない野菜が生まれます。そうした野菜を鶏が食べ、卵へと変えてくれる。さらに鶏糞は、土をつくる資源として活用できます。農業、養鶏、料理がそれぞれ独立しているのではなく、互いにつながることで、農場全体の循環が生まれています。

岩本藍さん|KURKKU FIELDS 養鶏担当

私たちの養鶏で最も大切にしているのも、循環型の養鶏を実践することです。一般的な養鶏用飼料は、輸入に頼っている部分があります。海外情勢や価格の変化によって、必要な餌が手に入りにくくなったり、価格が大きく上がったりすることもあります。

鶏は毎日食べなければ生きていけません。だから餌をすべて外部から購入するのではなく、地域や農場のなかで余っているものを活用できないかと考えています。現在は、おから、ビール粕、米ぬか、規格外の野菜や野菜くずなどを使い、自分たちで餌を配合しています。

例えば、販売できないキャベツを丸ごと鶏舎に入れると、鶏たちは葉だけでなく、硬い芯までついばみ、ほとんど残さず食べます。人間にとっては商品にならなかった野菜を、鶏が食べ、卵に変えてくれる。その「変換する力」は、鶏の大きな魅力です。

私は以前、野菜づくりや酪農にも関わってきましたが、ここまでさまざまなものを受け取り、別の価値に変えてくれる動物は、なかなかいないと感じています。農業を営むうえで、鶏は欠かせない存在だと思っています。

岩本藍さん|KURKKU FIELDS 養鶏担当
岩本藍さん|KURKKU FIELDS 養鶏担当

Question.

「平飼いなら安心」とは限らない。鶏を健康に育てるために、何を見続けているのですか?

岩本さん

平飼いだからといって、すべての問題が解決するわけではありません。鶏は、とても社会性のある動物です。群れのなかには序列があり、相性もあります。何羽で飼うことが鶏にとってよいのか、群れをどのような状態に保つのかは、とても難しい問題です。

KURKKU FIELDSでは、鶏が野菜や草を自由についばめるように、くちばしを切っていません。くちばしを使えることは、鶏本来の行動を尊重するうえで重要です。一方で、ストレスや群れの状態によっては、そのくちばしで鶏同士を傷つけてしまうこともあります。

つつきが強くなったときには、原因が餌にあるのか、空間にあるのか、群れの関係にあるのかを観察しなければなりません。「平飼いにしているから大丈夫」と決めつけるのではなく、目の前の鶏を見ながら、何を変える必要があるのかを考え続けることが大切です。

飼育方法を選ぶことは重要ですが、それだけでアニマルウェルフェアが実現するわけではありません。同じ平飼いでも、鶏舎の広さ、群れの大きさ、温度、餌、光、清潔さ、人との接し方によって、鶏の状態は変わります。

何か問題が起きたときは、「この鶏が悪い」と考えるのではなく、私たちが用意した環境に原因がないかを考える。餌の与え方を、もっと工夫できたのではないか。鶏が退屈していたのではないか。群れのバランスが崩れていたのではないか。鶏の状態を観察し、自分たちのやり方を修正していく。その繰り返しが、アニマルウェルフェアにつながっていくのだと思います。

Question.

鶏が「鶏らしく」過ごすために、どんな環境をつくっているのでしょうか?

岩本さん

鶏には、歩き回りながら何かを探し、つつくという強い習性があります。鶏舎のなかでも、鶏たちは常に歩き、足元を見ながら、食べられるものや興味を引くものを探しています。その行動をできるだけ満たせるよう、餌は一度にすべて与えるのではなく、一日に複数回に分けて与えています。

新しい餌が来れば、鶏の興味はそちらへ向きます。餌を探し、ついばむ時間が増えることで、鶏同士の争いを減らすことにもつながります。また、防疫上のルールを守りながら、鳥インフルエンザのリスクが低い時期には、屋外の放牧場にも出しています。

土や草に触れ、自分で歩き、食べるものを探し、ついばむ。鶏が本来持っている行動を、できるだけ発揮できる時間をつくりたいと思っています。

アニマルウェルフェアは、人間が考えた理想の環境を一度用意すれば終わり、というものではありません。実際に鶏がどう行動しているのかを見ながら、その環境が本当に鶏にとってよい状態なのかを、日々確かめ続ける必要があります。

にわとり

Question.

育て方の違いは、卵の味や色にどのように表れるのでしょうか?

岩本さん

卵の味は、食べる人の好みや鮮度、調理方法によっても感じ方が変わります。そのため、「この育て方だから必ずこの味になる」と言い切るのは難しいと思っています。

例えば、新鮮な卵ほど白身に弾力があり、卵かけご飯にしたときに、白身と黄身が混ざりにくいことがあります。その食感をおいしいと感じる人もいれば、少し時間が経って白身がなじんだ卵を好む人もいる。味の感じ方は、人それぞれです。

ただ、平飼い卵についてよく言われますし、私自身も感じているのは、癖が少ないことです。卵黄の色が濃ければおいしい、味が濃厚であればよい、という単純なものでもありません。卵黄の色は、鶏が何を食べているかによっても変わります。

色や味の強さだけではなく、鶏がどのように育ち、その卵がどのような人の手を経て食卓まで届いたのか。そこまで含めて、卵の価値を感じてもらえたらと思っています。

Question.

手間をかけて育てるほど、生産コストも高くなります。価格の問題には、どのように向き合っていますか?

岩本さん

飼料価格が大きく上がった時期には、卵の価格を見直さなければならないことがありました。鶏を健康に育て続けるためには、餌を止めることはできません。飼料価格が上がったからといって、餌の量や質を簡単に下げるわけにもいきません。

生産を続けるためには、必要な費用を価格に反映させる必要があります。飲食店も厳しい状況にあるなかで、the Blind Donkeyの皆さんが、それでも卵を購入し続けると言ってくださったことは、本当にありがたかったです。

私たち生産者だけで、平飼いや環境に配慮した農業を続けることはできません。選んでくれる料理人や店がいて、その料理を食べてくれるお客さまがいる。そこまでつながって、初めて生産を続けることができます。

生産者、料理人、食べ手は、それぞれ立場は違いますが、持続可能な生産を支えるという意味では、互いに支え合う関係なのだと思っています。

鶏舎

Question.

生産者の考えや育て方を、レストランはどうやって食べ手へ届けられるものでしょうか?

新井さん

生産者、料理人、食べ手は、役割こそ異なりますが、別々の存在ではありません。KURKKU FIELDSでは、野菜や動物がいる同じ場所に、生産に携わる人がいて、料理人もいます。ひとつのフィールドのなかで、それぞれが関係しながら仕事をしています。

場所が離れていても、本来の関係は同じです。生産者が育てたものを料理人が受け取り、料理として食べ手へ届ける。そして、食べ手がそれを選ぶことで、生産が続いていく。人間だけでなく、野菜や動物も含め、食に関わるすべての存在を「共同生産者」と捉えることができれば、それぞれの関係は変わっていくと思います。

環境やアニマルウェルフェアを、生産者だけが背負う課題にするのではなく、料理人や食べ手も同じチームとして考える。その関係を築くことが、持続可能性を守るだけではなく、環境をよりよい状態へ再生していく力になるのではないでしょうか。

岩本さん

the Blind Donkeyのようなレストランが、平飼い卵や有機野菜を料理として届けてくれることには、大きな意味があります。食べる人が、生産方法について自分で調べ、食材だけを見て選ぶことは、簡単ではないと思います。

けれど、レストランでおいしい料理に出会い、「この卵はどこで、どのようにつくられたのだろう」と興味を持つことはできます。現在の日本の食は、さまざまな農業や畜産によって支えられています。

ひとつの方法だけを正解にするのではなく、異なる生産方法があり、それぞれの背景を知ったうえで選べることが大切です。料理人やレストランには、そうした選択肢を、食べ手に分かりやすく見せる力があると思っています。

たまご

Question.

「おいしい」と「アニマルウェルフェア」は、両立できるのでしょうか?

曽根さん

両立できると思っています。むしろ、きちんと育てられた食材を、その特徴を理解したうえで調理することで、おいしさとアニマルウェルフェアはつながっていくと思います。

ただ、おいしさの基準を、一度見直す必要はあるかもしれません。例えば、強い甘さや濃さ、分かりやすい脂の量などに慣れていると、自然に育てられた食材を、最初は物足りなく感じることがあります。けれど、そうした食材には、食べた瞬間の強さとは異なる、素材そのものの力があります。

ひと口目だけでなく、食べ進めるうちに味が立ち上がってくる。食べ終わった後にも、その食材の印象が残る。僕が初めてthe Blind Donkeyで料理を食べたときに感じたのも、そういうおいしさでした。料理人が素材の特徴を理解し、過剰に手を加えずに調理すれば、そのおいしさは十分に伝えられます。

「アニマルウェルフェアに配慮しているから、味は二の次になる」ということではありません。レストランとしてお客さまに提供する以上、まず、おいしいことが大前提です。そのうえで、そのおいしさの背景に、動物の育てられ方や、生産者の観察、判断、仕事の積み重ねがある。それが、僕たちの考える、おいしさとアニマルウェルフェアの関係です。

そして、そうした食材には、手間がかかる分、一般的な食材より価格が高くなるものもあります。もちろん、レストランにも原価や販売価格がありますから、何も考えずに使えるわけではありません。

ただ、価格を下げることだけを優先し、生産者に負担を押しつけてしまえば、その生産方法は続きません。必要なのは、きちんとつくられた食材に適正な価格をつけること。そして、なぜその価格になるのかを、料理を通してお客さまに伝えていくことです。

価格の背景を言葉だけで説明しても、なかなか伝わりません。まず、料理としておいしく届ける。そのうえで、食材の背景にも関心を持ってもらう。それが、レストランの役割だと思っています。

曽根さん

Question.

「おいしい」の先に、the Blind Donkeyとしては生産者と食べ手をどうつないでいきたいですか?

曽根さん

僕自身は、活動家ではありません。アニマルウェルフェアや環境について、強い言葉で何かを訴えることが、自分の役割だとも思っていません。

僕ができるのは、レストランという現場で、信頼できる生産者が育てた食材を受け取り、その魅力を損なわず、おいしい料理としてお客さまに届けることです。食べた人に、まず「おいしかった」と喜んでもらう。その後で、使われていた野菜や卵に興味を持ち、生産者や育て方について知ってもらう。その順番が大切だと思っています。

生産者の考え方や、環境に配慮して育てられた食材が、一部の人だけが知る特別なものではなく、もう少し身近な選択肢になってほしい。そのためには、料理人と生産者が、これまで以上に深くつながる必要があります。

単に食材を仕入れるだけではなく、お互いの現場や課題を理解し、どうすれば生産を続けていけるのかを一緒に考える関係です。KURKKU FIELDSの卵を使い続けることも、そのひとつです。一個の卵の背景には、鶏の暮らしがあり、餌をつくる人がいて、農場の循環があり、それを運ぶ人、料理する人がいます。

レストランは、そのすべてを説明する場所ではないかもしれません。けれど、一皿の料理を通して、生産者と食べ手が出会う場所にはなれます。

the Blind Donkeyが、そうした出会いをつくるハブであり続けられたらと思っています。

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放牧された鶏たち